ゴルゴンゾーラと聞いて、多くの日本人は青かびの筋がたくさん入ったブルーチーズを思い浮かべるだろう...
それほど、ゴルゴンゾーラというチーズはブルーチーズの代名詞のようになっている。
これは日本におけるイタリアンやピザのブームによって、その地位を確固たるものとしているのだが、世界中でも愛され続けるこのチーズの魅力とその歴史について探ってみたいと思う。
イタリア北部ロンバルディアの州都であるイタリアを代表する都市の一つミラノから東に20kmほど行ったところにその町がある。
その名も「ゴルゴンゾーラ」
ゴルゴンゾーラ · イタリア 〒20064 ミラノ ゴルゴンゾーライタリア 〒20064 ミラノ ゴルゴンゾーラwww.google.com
当然だが、この町がゴルゴンゾーラ発祥の地と言われている。
正確な年代は定かではないが、9世紀後半には造られていたという説がある。しかしその名は「ストラッキーノ‐stracchino-」と呼ばれていたようだ。
この地域の伝統的な放牧形態は、秋にアルプスの牧草地から南の低地へ牛を下ろし、冬の間放牧する。春になると、その逆をする。この旅の間、牛は途中の休憩地点で乳を搾る必要があった。この牛乳で造られてチーズの最初のものが、ストラッキーノと呼ばれるチーズになったようである。
ストラッキーノの語源は、イタリア語で「疲れた」「柔らかい」という意味の「stracca」で、旅をして疲労した牛のことを指していると考えられている。そして、この疲れた牛たちが、平均よりも良いミルクを出すことに、チーズ職人たちは次第に気づいていったのだろう。それは、運動することで牛乳の脂肪分が多くなることを偶然にも知っていたからだ。
その休憩地点にゴルゴンゾーラの街が含まれていたのである。
そのため、ゴルゴンゾーラの当初は“stracchino di Gorgonzola”と呼ばれていた。
つまり、歩き疲れた牛のミルクで造られたゴルゴンゾーラ村のチーズということだ。
同地方で造られている「タレッジョ-Talegio-」というチーズもかつては「スラッキーノ」と呼ばれていたようで、地域が変われば全く違うチーズができるのである。本当にチーズの世界は奥深い…またこのチーズについてもいつか語ろうと思う。
ゴルゴンゾーラ誕生した逸話の中で、面白い話がある。
「ロミオというチーズ造りをしていた青年が恋に夢中のあまり、カード(凝乳)を一日放置してしまい、次の日、そのことに気づいたロミオは、そのことを隠そうと当日のカードを混ぜてチーズを作ることにした。
数週間後、チーズに青カビが生えていたのである...ロミオ青年は、恐る恐るそれを食べたところ、予想外に絶品であった。」
これがゴルゴンゾーラの誕生秘話と言われているが、私のブログをよく読んでいる方で、どこかで聞いたことがある物語だと気付いた方もいるだろう。
そう、世界最古のブルーチーズといわれるロックフォールの誕生秘話によく似ている。詳しくは、下記のブログを読んでほしい。
チーズ専門店カゼウス / 【ロックフォール】〜世界最古のブルーチーズ〜caseus.jp
要するに、ロックフォールの名声がすでにこの地方にも伝わっていて、その逸話にあやかりたいという思いがあったのかもしれない。
しかし、この物語にも製造のヒントが隠されている。
ゴルゴンゾーラの最も古い製造方法は、現在ではほぼ行われていないが、夕方に「凝乳」を仕込み、一晩おいて水切りをし、食用のカビ(チーズの緑や青の色を出す)の形成に関わる胞子に接触させるというものだ。(乳そのものには青かびの胞子を入れない。)
翌朝、このカードを型に流し込み、当日造った新鮮なカードを交互に重ねていく。あとは塩漬け、ピアッシングし、最後に熟成という工程になる。
※現在の製造方法は後に詳述するので、ここでは割愛する。
このように、逸話や伝説というのは全て本当のことではないが、その中に、何かしらヒントが隠されていることがある。
したがって歴史本などを読んでいると、とても信じられないような話がよく出てくるが、全てが作り話と考えるより、当時の著述家がなぜこのような表現や物語を作ったのかと想いを馳せながら読み解いていくのも歴史の楽しみ方の一つである。
さて、ゴルゴンゾーラには大きく分けて2種類のタイプがあるのは、ご存知だろうか?
それを「ドルチェ」と「ピカンテ」という名称で分けられている。
●ドルチェ・・・その名通り、甘くクリーミーで優しい口当たりが特徴だ。熟成期間が50日〜150日
●ピカンテ・・・「ピカンテ」とは辛いという意味もあり、ピリッとした辛味があり刺激的で濃厚な味わいがある。熟成期間が80日〜270日
ゴルゴンゾーラドルチェ
ゴルゴンゾーラピカンテ
これらのタイプ以外にも、ペースト状のものや古典的な方法で造られたゴルゴンゾーラもあるが、日本に輸入されるゴルゴンゾーラは、「ドルチェ」と「ピカンテ」がほとんどだ。
この2つのタイプの使い方だが、「ドルチェ」はパスタやピザなどによく使われている。もちろん、「ピカンテ」も同じような使い方ができるが、昨今の嗜好の変化でよりマイルドな「ドルチェ」が多く作られるようになっている。
01. 新鮮な牛乳は、乳業メーカーに届くと低温殺菌され、専用のタンクに注がれる。
02. そして、レンネット、乳酵素、ペニシリウム・グラウカム胞子(特殊な菌の一種)を牛乳に添加する。
03. 約20分後、カードをカットし、水抜き穴のある専用の傾斜機でホエーを排出する。
04. このカードを特殊な型(ファッシローリまたはファッシェーレ)に入れ、手作業で回転させる。作業終了後、酪農家の識別番号を貼付する。
05. チーズは「煉獄」と呼ばれるセルに移され、18°/24°Cの温度で休ませる。
06. 同じセルの中で、チーズは塩漬けにされる(「サラトゥーラ」)。
07. チーズは、温度2°/7°C、湿度85/99%の低温倉庫で約3週間熟成される。
08. そして、型に大きな金属製の針を刺す(「パンチング」)。そうすると空気が入りやすくなり、食用カビが発生し、ペーストの中に有名な緑や青の筋ができる。
熟成後、チーズはポーションにカットされ、ゴルゴンゾーラチーズ協会のシンボルである大きなGのレリーフのついたアルミホイルに包まれます。
生産酪農家の番号とコンソーシアムマークは、オリジナルのゴルゴンゾーラPDOの特徴的な要素である。
〜ペアリング〜
ゴルゴンゾーラのペアリングの考え方だが、「ドルチェ」に関してはその甘みを利用してマスカルポーネなどと混ぜて、ドライフルーツなどと合わせてデザートにしてもいいし、ハチミツやメロンなどのフルーツと合わせるのもいい。
「ピカンテ」は、その塩味を活かして生ハムに包んだり無塩のクラッカーなどに乗せてクルミなどを乗せて前菜にしてもいい。
料理にも溶けがいいので、幅広く使うことができる。
このように汎用性が高く香り高いゴルゴンゾーラだからこそ、世界中で愛させるキング・オブ・ブルーチーズとなれたのだろう。
ワインとのペアリングだが、贅沢をいえばバローロやバルバレスコだが、やや酸味が強くミディアムボディのドルチェットなどもいいだろう。
しかし、難しく考えるよりも日本において最も手に入りやすいブルーチーズなのだから、様々な食材や飲料で相性を試してもらいたい。